【売買契約書1「色々な形式があるんですね!」】


●国内外を問わず、日常生活の中で最も多く締結されているのは売買契約
(sales agreement)でしょう。自分自身の生活を考えてみても、スーパー
やコンビニで買い物をしない日は無いといっても過言でない気がします。
外国企業との売買契約にしても、インターネットや通信販売等で、個人で
買い物をしたことがある方は大勢いるはずです。あまりに当たり前なので、
自分が売買契約という契約を締結していることを意識することも無い
のではないでしょうか。


それほどまでに、日常的で、誰もが締結している売買契約なのですが、
いざ、売買契約書の雛型を出せと言われると非常に困ってしまいます。
なぜなら、あまりに多様な形態があるため、全ての案件にピタッと当て
はまる契約書が無いからです。


●売買契約書には、売買に関する条件を記載しなければなりません。
例えば、納入の条件として梱包について取り決めます。ガラス製品の
ように梱包形態について十分に注意しなければならない物がある一方、
原料の中には梱包が不要で(梱包できないのかもしれませんが)船上
に野ざらしで運ばれる物もあるでしょう。ソフトウェアの売買に至って
は、電子ファイルで送られることもあり、梱包という概念が無いものも
あります。取引される対象によって、売買条件(sales condition)
は変わるのです。


また、取引の頻度としても、個人が一回限りで契約する場合と企業間
で何度も同様の取引をする場合があります。一回限りの契約であれば、
その都度契約書を作成しても構いませんが、年に何百回と取引するよう
な場合には、毎回契約書を作成していたら事務手続きが大変です。
そのような場合は、売買の基本契約書(basic agreement)を作成し、
売買全体に関する基本事項のみ契約を締結して、個別の売買については、
発注書や簡易な個別契約のやり取りで済ませばいいのです。


●さらに、私自身はこの点が一番重要だと思うのですが、当該売買の
案件の重要性を意識した契約書を作らなければなりません。多くの方が、
契約というと色々なことを想定して事細かに条文で規定し、ページ数
も何十ページに及ぶものと考えているかもしれません。


しかし、事細かに規定すればするほど、相手方の同意を得ることが難しく
なり、契約交渉に時間を要することも事実です。金額も張る大きな案件
ですと、契約形態(スキームと呼んだりします)の社内検討から最終的な
契約締結まで最低でも2〜3ヶ月、交渉がもつれると年単位の時間が過ぎる
ことはざらです。企業合併等で何年も話し合いを続けてきたが、合意に
至らず破談になったというニュースは珍しくありません。


極端な例ですが、100円の買い物をする為に、何十ページの契約を締結する
方はいないと思います。契約交渉に時間を費やすくらいなら、契約無しで
さっさと買い物をして、空いた時間を有効活用した方がましです。一方、
何千万円もの費用をかけ、社運を左右するような案件に対して、メモ書き
程度の契約を締結することも常識的ではありません。


●つまり、案件の内容とその重要性によって、契約に記載すべき事項は変える
べきであり、その意味では百の案件があれば、百通りの契約書が生まれる
ということです。そして、売買という契約が日常化している以上、契約の
対象物、契約を締結する当事者の属性(国籍、法人・自然人、単一当事者
か複数当事者かなど)があまりにバラエティに富んでいるので、絶対的な
契約書の雛型は存在しないし、そのような物をつくるのは無意味だと考える
のです。


初めてのお客さんから、「売買契約書の雛型を下さい」とお願いされることが
あるのですが、そのような時は、案件の内容を確認した上で、それがお客さん
にとってどの程度の重要性があり、どれくらいの時間と費用を費やせるか
質問させてもらっています。それらのバランスを取った上で、可能な限り有利な
条件で契約を締結することが我々専門家の仕事です。


●雛型は無いとは言っても、それで終わりにしては、このメルマガの意味が
ありません(笑)。そこで、今回の売買契約の解説では、ごくごく基本的な
事項を説明していきます。ここで解説された条文があれば十分という訳でも、
条文がないから不十分という訳でもありません。具体的な解説は次回から
始めましょう。