【ライセンス契約書1「ライセンスって何?」】


●いよいよライセンス契約書の解説が始まります。最近は知的財産権
(intellectual property right)の重要性がしきりに謳われています。
知的財産権関連の講座はロースクールでも目玉科目の一つです。そして、
今後、知的財産権の活用を検討する際には、自社内での利用に留まらず、
外部からの資金獲得、第三者との提携ツールとしての利用に注目する必要が
あると思います。その手段として使われるのがライセンス契約です。


それでは、ライセンスとは何でしょう?自動車学校や資格学校のことを
「ライセンススクール」と呼んだり、種々の免許の呼称として「A級
ライセンス」などが使われたりしますから、その意味は「何となく分かる」
方が多いと思います。直訳すれば「許可」「免許」です。ですから、
ライセンス契約とは(使用・利用)許可契約となります。


●利用許可と言われると、「普通の物の売買とどう違うの?」と思われる
方もいるかもしれません。売買も利用許可も、どちらも対象物を自己が
使える点では同じです。それでは両者は何が違うのでしょうか?


例えば、近所のスーパーで大根を買ったとします。法律的に言えば
売買契約により、対価を支払う代りに、大根の所有権が移転します。物に
対する所有権は絶対的なものですから、誰かに気兼ねする必要はありません
し、どのように使うかは自由です。それを生で食べることも、おでん
に入れることも、食べずに捨てることさえ思いのままです。または、
友達に転売しても構いません。スーパーで買った値段の3倍の値段を
付けても結構です。さらに、その大根を家庭菜園やクローン増殖で
好きなだけ増やしてもいいんです(存在するか分かりませんが、
種苗法で保護されている品種があるとすれば別です)。


ゲームソフトを玩具屋で買った場合はどうでしょう?普通は「買った」
と言いますが、上記の大根のケースとは状況が違います。確かにゲーム
ソフトが収められているCDロムの所有権は移転します。それを通常通り
ゲーム機に入れて遊ぼうが、ブーメランにして飛ばそうが、カラスの
飛来防止用に畑に吊るそうが自由です。しかし、CDロムに収められた
プログラムを抽出して改変することは、普通は禁じられます。つまり、
プログラムについてはあくまでゲーム機上で作動させることのみが
許されているのであり、それ以外の利用は許可されていないのです。
当然、許可されていないプログラム利用目的のためにCDロムを利用
することも認められないと解するべきでしょう。


●つまり、ライセンス契約は対象物の利用態様に着目するのです。契約
で許可された範囲内で利用している時点では、売買契約との違いを
感じることは無いかもしれません。しかし、一度、許可範囲外の利用
行為を行ってしまうと、即、契約違反です。この点、ライセンス契約
では利用態様に関する取り決めを長々と記載することになります。
ソフトウェアライセンスではプログラムのコピーが禁止されるのは
当然、プログラムを稼動させるコンピューターの台数やそのコンピューター
が置かれる場所まで規定することがあります。


それでは、なぜ、それほどまでに利用態様を制限しなければならないの
でしょうか?これは知的財産権が無体物であることに理由があります。
有体物であれば、例えば、先ほどの大根1本であれば、その使われ方に
は自ら限りがあります。食べてしまうと、再利用は不可能です。増殖の
点についても、技術が発達すれば話は別ですが、そう簡単には増やす
ことはできません。


ところが、無体物は際限なく利用・増殖・改変される恐れがあります。
プログラム、電子データ、ノウハウ等はいくらでもコピーが可能ですし、
部分的に改変することも極めて容易なのです。さらに、パソコンとインター
ネットの普及は、場所と時間を選ばず違法行為が行われる危険性を増大
させ、それに対する監視・監督は困難になりました。この点から、知的
財産権の利用に関しては、利用態様の厳格な制限とその監視が重要事項
となるわけです。


●今回のライセンス契約の解説では、ソフトウェアライセンスを念頭に、
まさに現在、契約の現場で問題となっている点を出来る限り紹介していく
つもりです。ご期待下さい。