【ライセンス契約書2「ライセンシーは誰だ?」】


●早速、実際のライセンス契約書がどのように記載されるか見ていきま
しょう。契約書のタイトルは“License Agreement”となりますが、
ライセンス期間を限定するタイプの契約では“Time Based License
 Agreement”や“Fixed Term License Agreement”と記載されることも
あります。


タイトルの後には、契約当事者(party to the agreement)の名称・住所
の記載が続きます。例えば、以下の文言です。


THIS SOFTWARE LICENSE AGREEMENT (the "Agreement") is made as of
 25th June 2004, by and between X, with its principal place
 of business at 本店住所("Licensor"), and Y, with its principal
 place of business at 本店住所(“Licensee").


本ソフトウェア利用許諾契約(以下「本契約」という)は、2004年6月25日に、
○○に所在するX社(以下「ライセンサー」という)及び○○に所在する
Y社(以下、「ライセンシー」という)との間で締結された。


●注意すべきは、ライセンシーの記載です。ライセンス契約では対象物の
利用態様に重点を置くことは既に述べました。この点から、「誰がライセンス
を利用し、その利用態様に誰が責任を負うのか?」ということは常に意識
しなければいけません。つまり、契約の当事者として出てくるライセンシー
が真の利用者であるべきです。


「契約書に名前が出てくるのだから、当然その者がライセンシーだろう?」
と思われるかもしれません。ところが、現実は、そう簡潔ではありません。
国境に関係なく活動するグローバル企業は、税務・会計的視点と活動コスト
の低減を目的として、本社機能組織とプロジェクトのオペレーション組織が
別の国にあり、また、別会社になっていることが珍しくありません。
資本関係が単純な親子関係ではないこともあります。


私の経験では、契約書の当事者が米国会社で利用者は英国会社ということ
がありました。しかも、どちらが親会社かよく分からないのです。
親子関係は、ライセンス管理においては重要です。なぜなら、親会社
(parent company)は子会社(subsidiary)を監督するのが普通ですが、
一般的に、子会社が親会社を監督するのは容易ではないからです。少なくとも
契約の当事者は親会社とすべきです。


●そして、契約書に、さりげなく「ライセンシーには子会社を含む」なんて
ことが書いてあります。「関係会社(affiliate)を含む」というケースも考え
られるでしょう。秘密保持契約の解説でも触れましたが、このような記述は
要注意です。利用範囲を不用意に拡張することは危険なのです。特に、海外
の会社へ利用許諾する場合は、監査条項を入れたとしても、実際の監視は困難です。


この点から、契約当事者に以下の文言が付いている場合は確認が必要でしょう。
大きな会社であれば、子会社の数もそれだけ多くなります。


×× CORPORATION, on behalf of itself and its wholly owned subsidiaries 

「××社(当該会社が完全に支配する子会社を含む)」


関係会社の場合は、subsidiaryの部分がaffiliateに変わります。関係会社
という言葉は定義が曖昧ですので、無制限に利用範囲が拡大する恐れが
あります。どうしても関係会社という言葉を使用したいのであれば、
別の条文で文言の意味を定義するべきです。


プロジェクトの性格として、子会社や関係会社による対象物の利用が必要な
場合、契約の当事者として含めるのではなく、利用態様を定める規定に
おいて、サブライセンス(再利用許諾)を可能とする第三者(third party)
として限定的に利用させることが得策と考えます。この点は、後ほど解説します。

 
●古い形式の契約では、当事者を明示する文言の後に、前文が付けられることが
ありますが、ライセンス契約のような新しいタイプの契約では、まず前文が
付けられることはありません。